環境診断の方法 2

問題は現代の科学技術をもってしても、まだ人間あるいは他の動植物の生存環境を構成しているすべての要因を計量化し、その上での完全な総合が可能になっていないことです。


自然のシステムは、すでに考察されたエコシステムでも分かるように、直接・間接、見える糸・無数の見えない糸によってはりめぐらされた、いわゆるシームレスの布目のようなものでしょう。


科学的・計量的な分析把握は確かにモダンで合理的であり、個々のデータを量的に知る場合にはきわめて有効な調査法であり研究法です。


しかし、現状では把握しきれない未知の要因がかなり含まれている自然環境を対象とする場合には、分析的な手法だけでは不十分なのです。


一つの細胞・組織・器官・個体はもちろんのこと、同一種からなる集団、さまざまな種が組み合わされて形成されている生物社会の成長・発展・存続。


さらには消滅・後退のメカニズムについて、時間的・空間的・総合的に現在分かっていることだけの資料をインプットしても、そこから出てくる結論にしたがうことは、まだきわめて危険でしょう。

環境診断の方法

生命の側.人間の側・生命集団の側からみると、私たちが現在生活している都市や田園景観・・・


さらに自然が残されているといわれる高山・海岸・離島の自然環境は、どのような状態にあるでしょうか。


自然の診断、緑の現状診断に対しても、さまざまなアプローチの方法が考えられます。


一般的には、現代科学の常識的な手法として、対象を出来るだけ細かく分析し、計量化し、そこで把握された要因を・・・


例えばコンピュータにインプットして、シュミレーション・メソッドで診断するという方法が考えられます。


たとえば、大気圏・地圏・生物圏に分け、さらにその生物圏についても、人間・動物・植物・微生物やその集団が生存している空間を物理的・化学的に検討を加え、局地的、中地域的、マクロな地球的・・・


あるいは地方的・国土的な診断・手がかりを求めるという具合です。


また、気候条件.地形条件、植物の場合はさらに土壌条件、人間や動物が与える影響度などを出来るだけ区分し、それぞれ細分された個々の要因について分析的に、質的に、さらに計量的に把握を行なうという方法です。

自然界の微妙な均衡 4

現代人はこのような未知へのこわさを忘れ、不明の部分をきりすてて、計量化できるカーブや数値で表現できるもの・・・


経済指数で表わせるものだけを中心にした自然のシステムや環境問題を考えようとしてきました。


このようなやり方では、既知の個々のデータあるいは要因に対しては対応出来ます。


その具体的な実績が、十数年のマに日本が公害後進国から公害対策先進国になった個々の発生源対策の成果でしょう。


しかし、それらを総合したトータル・システムとしてのルールについては、まだまだ規制されていません。


無法時代が広がっているのです。


人が病気になったり、死亡してからではおそすぎます。


未知の要因も含めた総合的な自然界のルールを、グローバルなシステムから個々の具体的な生活域や活動域の中にも正しく読み取ることが大切でしょう。


人間も含めた生物集団と環境のゴムまりのような多様なシステムを総合的に把握し、自然界のルールを踏えた上での私たち一人ひとりの生存の確保が考えられ、社会制度として構築されなければなりません。


環境権も含めた生存権を保障するためには、このような自然界のルールを先取りし、そのシステムの中でまちがいのない一人ひとりの生活活動・日常活動が進められること。


さらにトータルとしての人間社会、人類の未来にむかっての永遠につまずかないルール作りが必要になってくるのではないでしょうか。


それは人間社会のみが作りうる、そしてすべての人々が共有でき、そして従うことが可能な人間社会のルール・・・


すなわち法的体系の整備にもつながると考えられます。


自然界の微妙な均衡 3

たとえば、尾瀬ヶ原のアヤメ平斜面のキダチミズゴケ湿原のように、泥炭の浅い斜面にかろうじてその泥炭をおさえながら発達している雪田植生的な湿原群落では・・・


人が不用意に立ち入ると、ちょうど、ミズゴケ類や生きた植物の根が古綿を縛る縄のような間は生物共同体の一員として生きのびてゆくことができるのです。


一見、見えない大気の組成や成分から水の中まで、私たちは非生物的な材料・環境要因については、かなり具体的に、新しい測定機械を使って計量化し、把握・考察することが可能になっています。


しかし、そのような個々の自然の構成要因から人間も含めた生物社会・生態系をシステムとして総合的に把握するには、まだまだ現代の科学・技術・医学では、未知の分野、今後解明されなければならない分野がきわめて多いのです。


とくに今までの自然科学は分析科学に片寄りすぎています。


したがって、個々の計量化は可能であっても、それを総合化した生態系、生物社会と環境のトータル・システムとしての立体像を具体的に構築することは、まだ不十分にしかできません。


概念的・理念的に大まかなエネルギーの循環システムあるいは物質の交流、また、人間も含めた生物が地圏と大気圏の生きたフィルターの機能を果たすことなどは、理論的にはかなり明らかに把握でき、部分的には計量化が可能です。


しかし、それを総合して見た場合、小さな湖、一本の小川、あるいは一つの山に対してすら、具体的にそのシステムを具現化することはきわめて困難なのです。


現代の科学はそれに対して未熟であるといえるでしょう。

自然界の微妙な均衡 2

ダイナミックな自然の、あるいは一定の人為的影響とつり合った生物社会の均衡状態は、それが1回限りの突然の自然のカタストローフやあるいは人間の無思慮な干渉によって破壊された場合・・・。


比較的容易に回復できるところと、回復がほとんど不可能なところとがあります。


一般に、人為的影響も含めて環境要因が多様で安定した地域では森林が形成されています。


長い間一定の人間の干渉とつり合って持続してきた関東地方のクヌギ、コナラ、エゴノキ、ヤマザクラなどの雑木林をみてみましょう。


15年か20年に1回伐採するという人為的な影響とつり合って存続している状態の里山林などでは、これらの人間の影響は、実はその遷移途上の二次林を足踏みさせ、均衡状態を確保するための一つのバランスのとり手の機能を果たしています。


しかし、一般にややきびしい、また極端な立地条件に生育している植生、例えば尾根すじ・急斜面などのモミ林、あるいはツガ・スギ・ヒノキの自生林などでは、一度伐採という形で人の手が入ると復元され均衡がとれるまでにはかなり時間がかかります。


その極端な例として、数メートル以上の泥炭の上にきびしい自然条件との微妙なバランスをとって成り立っている植物群落をあげることができます。


尾瀬ヶ原湿原や東北の八幡平湿原などでは、人が道からはずれて踏みこむだけで、そのミズゴケ湿原は壊滅的な破壊をうけます。


自然界の微妙な均衡

火山が爆発して100ないし150年を経ると、このような推移を経て、その土地本来の照葉樹林にまで発達します。


この最初の先駆植物の草本植物群落や、コケ植物群落から極相といわれる本来の森林に発達するまでは、実は植物群落が環境を変えます。


変えた環境がより競争力のつよい多層群落を形成するという交互の対応によって、均衡な状態を破っては新しい群落へ・・・


新しい群落がさらに発達して、環境との均衡をより競争力の強い種群が破るという状態の遷移の進行が続くのです。


生物社会と環境のバランスは微妙です。


例えば農道やグランドのまわりのオオバコ群落は、たえず踏まれるという一定のきびしい条件によって、実はその空間の唯一の占有者として持続的に存続します。


畑の雑草は、極端な表現をすれば、除草する限り半永久的に畑の主として嫌がられながらも農民と共存しているわけです。

遷移を手がかりとして 2

土壌が発達すると、草本植物だけでなしに草本植物の中にまじってハコネウツギ、オオバヤシャブシなどの陽性低木が生育します。


さらに陽性の低木が落ち葉をおとして、それが土壌生物によって土壌形成が進み、より土層が厚く発達します。


そこには陽性高木のエゴノキ、ミズキ、ヤマザクラなども生育してきます。


これらの陽性の高木の中には、当然同じ落葉樹の亜高木・草本植物が生育し、森らしき形を形成するのです。


さらに、これらの陽性の夏緑広葉樹林よりも土壌の発達した安定立地でより競争力の強い、その土地が本来の照葉樹林帯であれば常緑広葉樹のスダジイ、タブノキなどが高木層を被います。


亜高木層には、ヤブツバキ、モチノキ、シロダモ、カクレミノが発達します。


そして、低木層にはアオキ、ヤツデ、ピサカキ、草本層にはシュンラン、ヤブラン、ベニシダ、ヤマイタチシダなど何れも常緑植物が発達します。

遷移を手がかりとして

鹿児島県の桜島や伊豆大島の火山の溶岩流の上のようなきびしい環境では、最初は植物の生育は全く不可能です。


しかし、夏と冬、昼と夜との急速な温度の変化・・・


あるいは乾燥と降水などの水分条件の物理的な変化によって、さしもの硬い溶岩もしだいに風化し、こわされて、砂礫状の土壌母材料が出来ます。


伊豆大島などの溶岩上では最初、割れ目にコケ類と共に草本植物のハチジョウイタドリ、ハチジョウススキなどが芽生えます。


梅雨の雨の中で発芽した幼苗が夏の乾燥で耐えられなく、土壌が少ないため枯死します。


しかし、そこで生じた有機物が土壌の母材料とまじり、土壌小動物・微生物が住みつくようになると、いわゆる土壌らしきものが発達します。


翌年の梅雨時にふたたび芽生えたハチジョウススキ、ヒメノガリヤス、ハチジョウアキノキリンソウなどの草本植物群落は、少し大きくなります。


しかし、また夏の暑さで枯死します。


このような状態をくり返しながら、だんだんと土壌が発達します。


そして、ついにヒメノガリヤスやハチジョウススキなどの草本植物が夏を越し、定着することができます。


したがって、より多くの有機物を形成し、土壌が発達するのです。

自然界のルール 3

湿原の中にありながら水分の供給が全くなく、先端部のミズゴケやあるいはハナゴケ類も含めてだんだんと生育が困難な状態になります。


そして、ある日先端部が死滅します。


凸状地がボコンとひっこんで凹状形になります。


すなわち、デコボコが時間の経過と共に交互にくり返されているのが高層湿原の形態的な特性の一つです。


生態学的に見るならば、もしシュレンケの状態で環境が続けば、多湿な環境や水の中に生育するハリミズゴケ、ウツクシミズゴケ、アオモリミズゴケの群落としていつまでも維持出来るはずです。


しかし彼らが湿りすぎた状態からだんだんと遺体をそこに半分腐った状態・粗腐植の状態で蓄積して、ある面では環境改善をしてゆくと、次には逆にその行き過ぎた環境改善が彼らの生存をおさえ、より乾いた所に生育するブルト植生のイボミズゴケ、ムラサキミズゴケ、チャミズゴケ群落になります。


しかし、彼らもどこまでも遺体をつんで最適条件から最高条件までブルトが高くなった時に、ある日突然ボコンと落ちてふたたび元の木阿弥の小凹状地の水溜り状のシュレンケに変っていきます。


生物社会をこのように時間の系列でみると、多くの植物群落は最適条件から最高条件を求めて生育・過生長し、そして逆にその群落の破綻をもたらします。


均衡状態の破綻とその回復とは、そこに生育する生物集団の過生長が自らの改善した環境についてゆけなくなり、逆に環境改善が命とりになって次の植物群落に変ってゆく推移を示しています。

自然界のルール 2

高層湿原では、もともと低温でしかも養分が少ないものです。


貧養・過湿、そして強酸性で植物の遺体が容易にくさりません。


したがって、半腐れの状態、粗腐植の状態で水を含んでいるのです。


このくぼ地状のシュレンケに最初に生育するミズゴケはハリミズゴケ、次いでウツクシミズゴケで、ほかにはヌマガヤなどのイネ科の植物も生育し、さらにアオモリミズゴケが発達します。


他の植物と同様に、これらのミズゴケ類やイネ科・カヤツリグサ科の植物が枯死し、腐らないでそのままたまると、その凹状地がだんだんと高くなってきます。


少し高くなってシュレンケからブルトすなわち小凹状地から小凸状地へと進むにしたがって、イボミズゴケ、ムラサキミズゴケ、最後にはチャミズゴケという具合にミズゴケ類が凸状にとび出した形で生育します。


そこにはヒメシャクナゲ、ツルコケモモ、ポロムイスゲなどがまばらに生育していきます。


だんだんとこれらの高等植物やミズゴケ類の遺体がたまって、かつての凹状地よりも30センチぐらい高くなってきます。


それほど高くなると、もはや中がすかすかの状態で、給水機能もきかなくなり、その中に入ると大人の腰までも水につかるようなミズゴケ湿原の中でも、凸状地・ブルトの先端はきわめて乾燥してきます。


もはやミズゴケも生育出来ないほど乾いた所には、乾いた所にしか生育出来ないハナゴケ類の地衣植物が、こうやくをはったカサブタのような状態で発達するのです。

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